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特許・実用新案ビジネスモデル特許

いきなり!ステーキのビジネスモデル特許をプロが解説

たまにありませんか?「今日はお肉をがっつり食べたい!」、そんな日が。

この食欲を満たしてくれるのが、一度は聞いたことがあるはず、そう、あの「いきなり!ステーキ」です!

立って食べるステーキ、ステーキの量り売りなど、ステーキ業界に新しい風を巻き起こしました。

また、店舗に貼ってあるポスターの人が印象的ですよね。どなたなのでしょう。

今回は「いきなり!ステーキ」のビジネスモデル特許について、実際の特許文献を見ながら解説したいと思います。

1.どんな製品・サービスの特許か

  • 発明の名称:ステーキの提供方法
  • 特許権者:株式会社ペッパーフードサービス
  • 特許番号:特許第5946491号

「いきなり!ステーキ」の特許は、ステーキをお客様の要望の量を計って、食べたい分だけお肉を提供するシステムに関する特許です。

食べたい分だけ食べられるおいしいお肉。よだれが出てきそうですよね。

「いきなり!ステーキ」の特許の様な、ビジネスモデルと大きく関わる特許を「ビジネスモデル特許」と呼びます。

ビジネスモデル特許とは、あるビジネスモデルを実施する場合、その実施における技術的な工夫について取得した特許です。

特に、あるビジネスモデルの必ず必要な部分を取得することで、ビジネスをとても有利に進めることができます。

2.業界で従来使われた技術(背景技術)

特許文献には、その業界で従来使われていた技術を「背景技術」として記載しています。

「昔はこうだったよね。でも今回のこの発明は昔と違ってこんなにすごいんだよ!」と説明するための前置きが「背景技術」になります。

「いきなり!ステーキ」の背景技術には、従来のステーキ業界では、ゆったりと椅子に座り、会話を楽しみながら食すのが一般的であり、また、提供されるステーキの量が決まっていたり、選べる場合でも、100g、150g、200gなど、定量であったと記載されています。

皆様も、ステーキ屋へ行く場合、定量の選択肢の中から、おおよそ食べたい量を選ばれているのではないでしょうか。

3.背景技術の課題

 背景技術では、ゆったりと椅子に座って食事をするため、場所代、人件費がかかるため、ステーキが高価なものとなっており、また、提供するステーキの量が、定量で決められているため、お客様が自分の好みの量を、任意に思う存分食べられるものではなかったと記載されています。

確かに、よくあるステーキのお店では、大きなテーブルに座って、いくつかの量から選んでゆっくり食べていますよね。それでは、短時間でお肉が食べたい欲は、満たせません。

4.特許の内容(特許権の範囲)

次に、特許の内容(特許権の範囲)について、説明します。

特許権の範囲は、特許文献の「特許請求の範囲」という部分に、以下のように記載されています。

  • お客様を立食形式のテーブルに案内するステップと、
  • お客様からステーキの量を伺うステップと、
  • 伺ったステーキの量を肉のブロックからカットするステップと、
  • カットした肉を焼くステップと、
  • 焼いた肉をお客様のテーブルまで運ぶステップとを含むステーキの提供方法を実施するステーキの提供システムであって、
  • 上記お客様を案内したテーブル番号が記載された札と、
  • 上記お客様の要望に応じてカットした肉を計量する計量機と、
  • 上記お客様の要望に応じてカットした肉を他のお客様のものと区別する印しとを備えることを特徴とする、ステーキの提供システム。


もう少し簡単にまとめますと、

  • お客様をテーブルに案内して
  • ステーキの肉の量を聞いて、
  • その量のお肉をカットして
  • 肉を焼いて
  • 焼いた肉をテーブルまで運ぶというステーキの提供システムで、
  • テーブル番号が記載された札(ふだ)
  • お客様の要望に応じてカットした肉を計量する計量機
  • カットした肉を他のお客様の肉と区別する“しるし”
  • を兼ね備えた、ステーキの提供システム。


となっています。

「結構当たり前の内容では・・・???」とも思える内容ですね。

ですが、このシステムに技術的な工夫が認められたため、異議申し立て※を乗り越え、特許となりました。

※「異議申し立て」とは、正式には、特許異議申立制度といい、特許付与後の一定期間に限り、広く第三者に特許の見直しを求める機会を付与する制度です(簡単にいうと、一定期間に限り、他社の特許に文句をつけることができる制度です)。

また、特許には、特許のイメージが湧きやすくなるように、特許を説明する図面が記載されています。


立食形式のテーブルTの斜視図(※特許第5946491号公報の図1から引用)          

しるしSを付した状態のステーキの斜視図(※特許第5946491号公報の図3から引用) 



テーブルTの図は、スタッフが左側に立ち、右側にお客様が立って食事をするテーブルの図で、Hが「札(ふだ)」で、お客様を区別できるようになっています。

また、下の図が、提供するステーキの図で、Sが「シール(しるし)」になっており、他のお客様のステーキと区別できるようになっています。

どうでしょう、「ステーキの提供システム」のイメージは湧きましたでしょうか?

お客様の要望の量にカットした肉を、お客様にきちんと提供できるように工夫を凝らした、とても良いビジネスモデル特許です。

5.まとめ

今回の特許のシステムは、お客様の要望の量の肉を、お客様に提供するというシステムでした。

お客様のことを考えた上で、会社にも利益が生まれる構造(システム)を特許にできた非常に良い例です。

実をいうとこの特許は、登録となったのち、前述した異議申し立てが行われ、特許権の範囲をなくなく狭くしたという事情があります。

そして、特許権の範囲が狭くなったのを見計らって競合他社が参入してきたと言われています。

  • 2016年8月2日:「いきなり!ステーキ」の特許に関するプレスリリース
  • 2016年11月24日:「いきなり!ステーキ」の特許へ異議申立
  • 2017年12月12日:権利範囲が狭くなることが確定
  • 2017年12月15日:「ステーキのあさくま」がプレスリリース
  • 2018年1月15日:「ステーキのあさくま」1号店がオープン

↑は、「いきなり!ステーキ」が特許に関するプレスリリースを打ってから、「ステーキのあさくま」の1号店がオープンするまでの時系列です。

↑の時系列をみると、1年以上の期間、競合となる株式会社あさくま(ステーキのあさくま)の新規参入を実質的に遅らせた特許であるといえるでしょう。

もし、異議申立てで、権利範囲が狭くなっていなかったら、「いきなり!ステーキ」の株式会社ペッパーフードサービスが、立食ステーキ市場を独占していたかもしれません。



このように、ビジネスモデル特許は、ビジネスを進めるうえで、非常に有効な材料となりえます。

ビジネスを有利に進めたい、他社に真似されたくないビジネスなどがございましたら、ビジネスモデル特許を取得することをとてもおすすめします。

IP FELLOWS 特許商標事務所では、ビジネスモデル特許など、ビジネスに直結する特許を最も得意としております。

  • ビジネスモデル特許はどうやったらとれるか?
  • ビジネスモデル特許を取得するためのアイデアが欲しい

など、お悩みの際は、ぜひ弊所へお問い合わせください。



PS:ちなみに、最初にお話ししました、印象的なポスターの人、実はこの特許の出願人である株式会社ペッパーフードサービス元社長の一瀬邦夫さんだそうです。(2022年8月に辞任) 

さらに、この特許の発明者も一瀬邦夫さんです。社長自ら特許を取るなんて、なかなか面白い会社ですよね。

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