知財実務における生成AIとの向き合い方|実際に検討してみた気づき

生成AIの進化により、知財実務の現場でも、「生成AIをどう使えばよいのか」という問いが少しずつ聞かれるようになってきました。
一方で、実務の中でそれを具体的にイメージできている人は、まだ多くない印象があります。
生成AIは、特許実務をどのように変えるのか。
そもそも、どこまでを生成AIに任せてよいのか。
そして、どこからは人が判断すべきなのか。
本記事では、実際に生成AIを用いて技術アイデアの整理から特許出願までを試みたワークショップの開催事例を素材にしながら、現時点で見えてきた考え方や位置づけについて整理します。
事例紹介:生成AIを活用して特許出願を目指すワークショップを開催
生成AIを活用した知財実務のワークショップが「知財みらい会」というコミュニティで第3回に亘って開催されました。
※知財みらい会は、IP FELLOWS 特許商標事務所の代表の辻が運営代表を務めるコミュニティです
- 生成AI活用勉強会(第1回目)@2025/8/30開催:業界情報・競合情報から出願方針を策定
- 生成AI活用勉強会(第2回目)@2025/10/4開催:出願前調査・クレームセットの設定
- 生成AI活用勉強会(第3回目)@2025/11/3開催:明細書作成
知財実務、とりわけ特許出願の実務において重要なのは、明細書の表現を吟味することよりも ではなく、出願したい技術を適切に捉え、出願戦略の立案と実行を的確に行うことです。
生成AIの活用に関わらず、この点は一貫して変わらないはず。
今回の開催したワークショップでは、発明の構想から出願方針・クレームセットの設定、明細書の作成までを実際に生成AIを用いて行い、参加者同士で使い方を議論しました。
その中で、技術をどのように捉えるか。どのような権利取得を目指すか。明細書に何を記載するか。といった方向性の検討に主軸を置いたワーク設計としました。
なお、本記事で紹介するワークショップは、特許出願の代理や法的手続きを行うものではなく、実務者の思考プロセスや検討方法を学び合うことを目的としています。
生成AIは出願業務の思考アプローチを変える?
ワークショップでの検討を通じて、生成AIは特許実務における思考の進め方そのものに影響を与え得ると感じられました。
生成AIを用いて出願方針やクレームセットの設定、明細書の作成を行うとき、ワークショップでは「複数案を作成して、より良いものを選定する」という場面に多く直面しました。
生成AIに頼らず手作業でこれらの検討を行う場合は「複数案を作成する」というステップを踏むという流れはとりづらいのではないでしょうか。
生成AIの活用により、出願業務のアプローチが変わり検討の質も上がることが期待されます。
ここで、人間が与える作成条件や判断基準が明確であれば、生成AIは短時間で複数案を提示し、理由づけを行いながら整理することができます。
一方で、作成条件や判断基準が曖昧なままでは、文脈からそれらしい判断を行い、期待と異なる方向に進んでしまうことも少なくありません。
すなわち、生成AIを使う前提として「人がどのような条件を与えるか」が重要であると言えそうです。
それを理解して生成AIと付き合えば、思考を発散させ、整理し、選び取るプロセスにおいて生成AIは優秀な伴走者となってくれるでしょう。
最終判断を「人」が行う必要性とハードル
生成AIが出願業務の思考やアプローチを変え得ることがわかった一方で、生成AIをうまく機能させるための条件や基準の設計は慎重に検討すべきであることも明らかになりました。
経験のない業務を進める場面では、「何を前提に考えるのか」「どの観点を優先すべきか」といった検討の軸を定めること自体が難しいものです。
生成AIと対話しながら進めることはできても、「その出力を正しく評価できるか(最終的な意思決定ができるか)」といった課題が残ります。
また、例えば明細書案の作成においても、体裁の整った文章を生成することは容易である一方、それが実務として許容できる質であるとは限りません。
一定の基準に基づいて、最終的には「人が」判断する必要があります。
このように、生成AIを伴走者として使う前提に立つことで、人が設計すべき条件や基準の重要性が浮き彫りになってきました。
まとめ
今回のワークショップを通じて、生成AIを用いることで、特許実務における思考の進め方そのものは変わり得る一方で、
最終判断は「人」が行う必要があること、そのために生成AIに与える条件や基準の設計が求められることがわかりました。
知財実務における生成AIの議論は、「生成AIの出力が正しいかどうか」「どの業務を生成AIに任せるか」ではなく、生成AIが伴走者として機能する前提のもとで「人がどのように条件や基準を設計するか」が問われているように感じます。
生成AIがどれほど進化しても、特許出願実務の本質は変わらないでしょう。
しかし、思考の質やスピードを引き上げ、実務者が向き合うべき論点をより明確にする存在にはなり得ます。
本記事で紹介した事例が、知財実務において生成AIとどのように向き合うかを考える一つの素材になれば幸いです。
※本記事は、生成AIを活用しつつ、ワークショップ主催者でもある執筆者の経験・判断に基づいて構成および加筆修正して作成しました。
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