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パルワールド特許訴訟から学ぶ|ゲーム開発者が知るべき知財戦略を徹底解説

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ゲーム業界で話題になった「パルワールド(パルワ)特許訴訟」
任天堂が動いた理由、そして開発側が取った“設計変更”という決断の裏側に、興味を持った方も多いのではないでしょうか。                                        

本記事では、任天堂・ポケモンによる「パルワールド」特許侵害訴訟を切り口に、ゲーム業界における特許訴訟の実態、訴訟中の設計変更がもたらす影響、そして開発者・経営者が知っておくべき知財戦略を徹底解説します。

パルワールド特許訴訟とは?何が問題になったのか

2024年9月、任天堂株式会社と株式会社ポケモンが共同で、人気ゲーム「パルワールド」の開発元であるポケットペア社を特許権侵害で提訴しました。

パルワールドは、モンスターを捕獲・育成するオープンワールドゲームとして2024年初頭に爆発的なヒットを記録しましたが、その一方で「ポケモンに似ている」との指摘が多く寄せられていました。

しかし今回の訴訟は、キャラクターデザインの類似ではなく、ゲームシステムに関する特許権侵害が焦点となっている点が特徴的です。


任天堂が主張する3つの特許権侵害

任天堂・ポケモン側が主張する特許侵害の内容は、主に以下のものです。

1. モンスターにぶら下がって移動する機能 (特許7528390号)

プレイヤーがモンスター(パル)にぶら下がって飛行・移動する仕組みが、任天堂の保有する特許技術に該当するとされています。

パルワールドでは「グライダーパル」という機能で、プレイヤーがパルにぶら下がりながら空中を移動できる仕様が実装されていました。

2. モンスターボールのような捕獲UIと捕獲率ゲージ(特許7505854号 , 特許7493117号)

モンスターを捕獲する際に、投げるアイテム(パルスフィア)を使用し、捕獲成功率をゲージで視覚的に表示するUIが問題視されています。

この仕組みは、ポケモンシリーズのモンスターボール投擲とUI表示に類似しており、任天堂が保有する特許技術に抵触する可能性があるとの主張です。

また、捕獲したモンスターを戦闘やフィールドに召喚する際のシステムについても、特許侵害が指摘されています。

👉参考:「J‑PlatPat(特許情報プラットフォーム)」
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/


訴訟中に設計変更は可能か?パルワールドがとった対策とは

結論から言うと、訴訟中でも設計変更は可能です。

実際、パルワールド側は訴訟提起後に以下のような設計変更を実施しました。

  • モンスターにぶら下がる → アイテム(パラグライダーなど)にぶら下がる
  • パルスフィアを投げて召喚 → パルが横から自動召喚される仕様に変更

こうした変更は、ゲーム体験を大きく変える可能性があるものの、今後の特許侵害リスクを回避するための防御策として実施されたと考えられます。

ただし、設計変更には膨大な開発コストと時間がかかり、ユーザー体験にも影響を及ぼすため、決して簡単な選択ではありません。


特許無効化が難しい理由

特許を取得すると訴訟を受けた側が取りうる対応策は、主に2つあります。

  1. 特許の無効を主張する
  2. 設計を変更して侵害を回避する

多くの場合、両方を並行して進めるのが一般的です。

しかし、特許の無効化は簡単な話ではありません

その理由は以下の通りです。

  • 特許権よりも前に公開されていた文献(先行技術)を探し出す必要がある
  • 膨大な資料調査と法的主張を弁理士・弁護士に依頼する必要がある
  • 無効審判を請求しても、認められるケースは限定的

そのため、パルワールド側は「特許は無効だ」と主張しつつも、万が一無効化できなかった場合に備えて設計変更も実施したと推測されます。

👉参考:特許庁「特許無効審判の手続き」
https://www.jpo.go.jp/system/trial_appeal/shubetu-muko/index.html


設計変更しても損害賠償は避けられない

ゲーム業界では「設計変更すれば訴訟は終わり」と思われがちですが、実はそうではありません。

特許侵害訴訟では、過去の侵害行為に対する損害賠償請求が可能です。

つまり、現在のバージョンで特許侵害を回避しても、過去に侵害していた期間の損害賠償は請求され続けるのです。

そのため、設計変更後も訴訟は継続し、過去の売上や利益に基づいた賠償金が請求される可能性があります。


まとめ:パルワールドから学ぶ知財リスク管理

パルワールド特許訴訟から学べるポイントは以下の通りです。

  • ゲームシステムやUIは特許で守られている
  • 訴訟中に設計変更は可能だが、コストと時間がかかる
  • 特許無効化は簡単に出来るものではなく、設計変更も並行して検討すべき
  • 設計変更しても過去の侵害に対する損害賠償は請求される
  • ゲーム業界は特許訴訟が頻発するため、開発前の特許調査が重要

ゲーム開発者や経営者は、開発段階から特許調査を行い、既存の特許に抵触しないよう設計することが求められます。

また、自社の独自技術については積極的に特許出願を行い、知財ポートフォリオを構築することで、訴訟リスクを低減できます。

パルワールドの事例は、ゲーム業界における知財戦略の重要性を改めて示す出来事となりました。

製品やサービスを育てるには、開発初期から特許戦略を組み込むことが将来的なリスク回避につながります。

経営判断の早い段階で特許対策を検討しておくことをおすすめします。


👉 参考動画:【ポケモンvsパルワールド訴訟】何が問題?現役弁理士が解説!


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