UPSIDERに学ぶ特許戦略|460億円買収の裏にある攻めの知財術

特許戦略でM&Aを成功させたUPSIDER──どんな戦略があったか気になる方も多いのではないでしょうか?
スタートアップにとって特許は“コスト”ではなく、“レバレッジ”にもなり得ます。
本記事では、みずほ銀行に約460億円で買収されたフィンテック企業※「UPSIDER(アップサイダー)」の事例を通じて、スタートアップにおける特許戦略の重要性、AI審査による独自の与信システムや、競合との差別化ポイント、経営者が知っておくべき知財戦略まで、実例をもとに分かりやすく整理します。
※フィンテック企業:「金融×テクノロジー」で、従来は銀行や証券会社が担っていた機能(送金・決済・融資・投資・保険など)を、ソフトウェアとデータ分析で“早く・安く・使いやすく”する企業
目次
UPSIDERとは?急成長の背景
UPSIDERは2018年に東京で設立されたフィンテック企業で、代表は東京大学出身の連続起業家である水野氏と宮城氏です。
その成長スピードは驚異的で、以下のような実績を残しています。
- 導入企業数:8万社以上
- 累計カード決済額:6,500億円
- 創業7年で売上100億円達成
- みずほ銀行による約460億円での買収
法人向けクレジットカードや請求書のカード払いサービス「支払.com」など、企業の支払い業務をデジタル化するサービスを展開してきました。
👉 参考:UPSIDER公式サイト https://upsider.com/
従来のクレジットカードとの決定的な違い
UPSIDERが提供する法人カードは、従来のクレジットカードとは根本的に異なる特徴を持っています。
デジタル化による圧倒的な利便性
デジタルでのカード発行が可能で、無料で無制限にカードを発行できる仕組みです。
クレジットカード情報が領収書や請求書と自動で紐付けられるため、経費精算の効率が大幅に向上します。
革新的な与信審査システム
最大の特徴は与信方法の独自性にあります。
・従来の審査方法
カード会社が決算書や過去の会社の成績を見て、クレジットカードを与えてよいか、さらに与信枠はどれくらいが適切かを判断していました。
・UPSIDERの審査方法
スタートアップ企業向けのカードとして、過去の実績がない企業でも、未来の成長性をAIで予測し、最大10億円の限度額を設定できます。
企業の売上データをすべてデジタルデータ化し、将来的な安定性を分析することで与信枠を算出する、まったく新しいアプローチです。
👉 参考:金融庁「フィンテック企業による金融サービスの提供について」
https://www.fsa.go.jp/
競合サービス「バクラク」との差別化戦略
フィンテック業界には類似サービスも存在します。代表的なのがLayerX社が提供する「バクラク」です。
サービスコンセプトの違い
・バクラクの特徴
もともと請求書の発行から始まり、次にバックオフィスのDX、そこからクレジットカードが誕生したという流れです。バックオフィス効率化を軸としたサービス展開といえます。
・UPSIDERの特徴
「上場のための法人カード」というコンセプトで、与信のないスタートアップがたくさんお金を借りて広告を回して事業を拡大し、上場を目指すという明確なターゲット設定です。
売上データをすべてデジタルデータ化して、リアルデータから限度額を算定します。
この違いにより、UPSIDERは成長志向の強いスタートアップから圧倒的な支持を得ています。
AI与信システムと特許申請の現状
UPSIDERの競争力の核心は、取ってきた社内の稟議情報をもとに与信の基礎情報を取得するシステムにあります。
特許申請状況
このシステムについて特許申請を行っており、現在は審査結果待ちの状態です。
特許出願のメリットと課題
特許は出願から約1年半で公開されるため、ノウハウを守りたい企業にとってはジレンマがあります。海外に類似プロダクトが存在していた、特許調査の結果似たようなものがあった、ノウハウを保護したいから出願しなかったなど、さまざまな理由で出願を見送るケースもあります。
👉参考:特許庁「初めてだったらここを読む~特許出願のいろは~」
https://www.jpo.go.jp/system/patent/shutsugan/index.html
UPSIDER×みずほ銀行の戦略的シナジー効果
約460億円という高額での買収には、双方に明確な戦略的メリットがあります。
UPSIDER側のメリット
みずほ銀行が持つ、倒産した会社や業績が伸びている会社の傾向、キャッシュフローのデータといったノウハウを活用することで、AIシステムの精度を上げられるでしょう。
膨大な金融データへのアクセスは、与信判断の精度向上に直結します。
みずほ銀行側のメリット
上場を目指す法人カードを使って成長する企業、つまり将来の大企業をいち早く囲い込めることが最大の狙いです。
スタートアップが大企業に成長した際のメインバンクになれる可能性が高まるため、長期的な事業メリットは計り知れません。
👉参考:みずほフィナンシャルグループ「M&A戦略」 https://www.mizuho-fg.co.jp/
弁理士 辻が考える理想的なUPSIDERの特許戦略
革新技術の特許化
与信方法、つまりAI審査の部分が最も新しいポイントであり、キャッシュフローデータをすべて投入してそこから与信枠を設定する発想を、最優先で出願すべきでしょう。
前述の通り、特許は約1年半で特許が公開されるためノウハウを保護することや、日本国内・海外に類似プロダクトが存在していないか等の事情を鑑みて方針を決めていきます。
周辺特許による方位戦略
会社のウェブサイトへのアクセス数や、社長のSNSフォロワー数など、会社としての影響力が上がってきているかを予測する仕組みも特許ポイントになり得ます。
こうした周辺部分でも細かく特許で固めていくことで、模倣を防ぎつつ交渉力を高められます。
機能面での特許取得
プラスチックカードをデジタル化しただけでは特許取得は難しいが、複数のカードを発行できる、カードの上限枠を自由に決められる、特定の担当者にカードを割り振れるといった機能面にも特許のポイントがあります。
こうした機能を細かく見て特許のポイントを探ることで、多層的な知財ポートフォリオが構築できます。
👉参考:特許庁「ビジネス関連発明の審査基準」 https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/patent/index.html
まとめ
- AI与信という独自技術が企業価値の源泉:過去ではなく未来を見る審査方法が差別化ポイント
- 特許は防御だけでなく攻めの武器:買収交渉やパートナーシップでも価値を発揮
- 核心技術と周辺特許の両輪が重要:メインの発明だけでなく、関連機能も含めた包囲戦略
- データとノウハウの掛け合わせが競争力:みずほ銀行との提携で精度向上を実現
UPSIDERの事例は、フィンテックやスタートアップにおいて、特許が単なる「守り」ではなく、事業成長や資金調達、M&Aにおける「攻めの資産」になることを示しています。
サービスや技術を持つ経営者・開発者は、リリース前から知財戦略を組み込むことで、将来の選択肢を大きく広げることができるでしょう。
経営判断の初期段階から、特許戦略を組み込むことが成功への近道です。
👉参考動画:【460億円で売却?】UPSIDERに学ぶ特許戦略と成長の秘密

